全く異なる文化習慣を持つバリニーズから多くを学んだ5年間だった。
彼らは我々日本人が忘れてしまった大切なことや、知らなかったことを教えてくれた。
もちろん同じ人間なので、逆も然りであったが。
なんでこんなことをするんだろう、とがっかりするようなこともあったのも事実だ。
今回は私が彼らから学んだことの一部をご紹介したいと思う。
私が移住してきた当初、サーファーの友人とこんなやりとりが繰り返されていた。
「明日どうする? 明日どこ行く?」
日本では明日の予定を確認することは普通のことである。
明日どこでサーフィンをするのか、どんな波なのか、何時に出発するのか。
明日のことは常に関心事であった。
「ワカラナイヨ~」
彼らにとっては明日のことなど明日になってみないとわからないこと。
先のことをアレコレと考えないで『今』を生きるのが彼らのスタイルなのだな、とその時は感心した。
きっと常夏の気候が彼らをそうさせるのだな。
常夏だからこそ、先のことを案じずとも生きてゆけるのだなと。
しかしその考え方にはもっと深い部分があることを後々に知ることとなった。
そこには彼らの信じるバリヒンドゥの教えがあったのだ。
バリヒンドゥの教えでは『輪廻転生』が教義の基盤となっている。
つまり、人は生まれ変わってくるという教えだ。
ある時、バリニーズの友人にこのことについて聞いてみたことがあった。
「やっぱり生まれ変わりを信じてるの?」
「信じてるんじゃなくて、知ってるんだよ」と彼ははにかんだ。
生まれ変わってくることについては『信じている』というレベルではなく、事実として『知っている』という感覚なのだとその時初めて知った。
彼らの生き方に大きな影響を及ぼしていることを知ったのだ。
そして私はそのことについて深く考えてみた。
彼らを知るにはそのことを理解することが鍵だと感じたのだ。
人が生まれ変わってくる存在だとするならば。
人の一生というものは永遠に続いていくものであると定義されることになる。
永遠に続くということは、つまり永遠に『今』が続いていくということになる。
ということは、必要以上に先のことをアレコレと考えなくてもよい、となってくる。
アレコレと案じたところで『今』が続いていくだけのことなのだ。
結果、『今』を生きていればいいのだ、という境地に達するというわけなのである。
バリニーズの笑顔は我々日本人のものと少々『質』が違うように感じる。
すっかり澄み切った笑顔とでもいおうか。
まるで、子供が見せるような混じり気のない笑顔を老若男女が見せてくれる。
「この人たち、悩みなんかないんだろうな」などと最初のうちは思ってしまっていたが、彼らとて同じ人間。
悩みの一つや二つは持っている。
その点では日本人とは変わりがない。
しかし、根本的な部分で楽観的になれる生き方をしている。
それが、『人は生まれ変わってくる』という考え方が起因しているのではないかと思うのだ。
話が少々スピリチュアル方面へと傾いてしまったが、本当のバリを語る上で、目に見えない彼らの信じる世界を無視することは決してできない。
目に見えている世界と目には見えていない世界が半分ずつ、というのが彼らの世界観なのだ。
そういう話をハナから信じずに、バカにしてしまうような人はバリニーズたちと深い話はしないほうがいい。
きっと彼らの気分を害してしまうことになるから。
これが、彼らが生きている我々が知らない彼らの世界なのである。
本当に人が生まれ変わってくるかどうかは私にはわからない。
科学的に証明されているような話ではない。
ただ、生まれ変わってくることを『知っている』人たちに囲まれて生きている私は、そのほうがどうやら幸せである、
ということを知った人になったというのが今の私なのではないかと思うのだ。